米国競馬で、3歳馬路線の枠組みを大きく変える新シリーズが誕生する。チャーチルダウンズ社(CDI)とニューヨーク競馬協会(NYRA)は2026年8月3日、2027年から「Thoroughbred Championship Series(サラブレッド・チャンピオンシップ・シリーズ)」を開始すると発表した。ケンタッキーダービーから9月の新設チャンピオン決定戦まで、5か月間・全6戦の成績をポイント化し、米国3歳王者を決める年間シリーズである。

2027年のシリーズ構成

順番競走開催時期競馬場
1ケンタッキーダービー5月1日チャーチルダウンズ
2ベルモントステークス6月5日ベルモントパーク
3マットウィンステークス7月・日程未定チャーチルダウンズ
4ジムダンディステークス7月下旬~8月上旬サラトガ
5トラヴァーズステークス8月下旬サラトガ
6チャンピオンシップレース9月・日程未定チャーチルダウンズ

2027年のベルモントステークスは、改修を終えたベルモントパークへ復帰し、サラトガ代替開催で短縮されていた距離も伝統の1マイル半へ戻る予定である。ダービーからベルモントまでは5週間空くため、従来の「ダービーから2週間でプリークネス」という最大の負担を避けながら、二つのクラシックをシリーズの入口として位置付けられる。

新シリーズが目指すもの

米国競馬は競馬場、主催者、放送局ごとの分断が強く、ひとつのシーズンとして有力馬を追いにくいことが長年の課題だった。今回、最大級の民間競馬企業であるCDIとニューヨーク競馬を担うNYRAが提携し、NBCとFOXもまたいで放送することには大きな意味がある。単発の大レースを並べるのではなく、順位表、ポイント争い、再戦、最終決戦という米国プロスポーツに近い物語を競馬へ導入し、ダービー後に落ち込みやすい一般層の関心を9月まで維持する狙いだ。

各競走の通常賞金とは別に、最終順位に応じて総額500万ドルのボーナスが配分される。統一ポイント制度が導入され、特定の一戦を勝つことよりも、複数の大レースで継続的に好成績を残すことが重視される。記者会見では、ボーナス対象となるために全6戦のうち少なくとも4戦への出走が必要になるとの説明もあった。チャーチルダウンズ開催分はNBC、NYRA開催分はFOXが全米中継を担当する。

三冠は廃止されないが、王道路線は二つに分裂

重要なのは、ケンタッキーダービー、プリークネスステークス、ベルモントステークスによる従来の米国三冠が正式に廃止されるわけではない点だ。三競走をすべて勝てば、今後も「三冠馬」として扱われる。主催者側も、新シリーズは三冠を変更するものではなく、その上に積み上げる別のチャンピオン制度だと説明している。

しかし実態としては、旧三冠の中間戦であるプリークネスだけが新シリーズから外された。ダービーとベルモントにはポイントが付き、さらに夏のジムダンディ、トラヴァーズ、9月の決定戦へ続く一方、プリークネスに出走しても新シリーズ上の直接的な利益はない。少なくとも4戦出走が条件となれば、陣営は短い間隔でプリークネスを追加するより、ダービーからベルモント、その後の夏競馬へ進むローテーションを選びやすい。

このため「三冠そのものの解体」ではないものの、賞金、放送、ポイント、年間表彰を一体化した新制度が3歳路線の主流になれば、プリークネスを含む従来の三冠は名誉記録として残りながら、実務上の王道路線ではなくなる可能性がある。

なぜ今、改革が必要になったのか

従来の三冠は、5月第1土曜のダービーから2週間後にプリークネス、さらに3週間後にベルモントを走る過酷な日程だった。現代の米国競馬では有力馬の出走間隔を長く取る傾向が強まり、ダービー馬がプリークネスを回避する例が目立っている。2025年のダービー馬ソヴリンティはプリークネスを使わずベルモントとトラヴァーズを制し、年度代表馬と最優秀3歳牡馬に選出された。2026年のダービー馬ゴールデンテンポもプリークネスを回避し、ベルモントへ直行して勝利している。

つまり「2週間後のプリークネスを走らなくても、3歳王者になれる」という成功例が2年続いた。三冠挑戦の名誉より、馬の健康管理と中長期的な価値を優先する現在の調教・経営判断に、従来の日程が合わなくなっていたのである。新シリーズは出走間隔を確保しながら、春から秋まで有力馬同士の再戦を促し、ファンが順位争いとライバル関係を継続して追える仕組みを狙っている。

最大の焦点はプリークネスの扱い

プリークネスの知的財産権は2026年7月末にメリーランド州が取得したばかりで、CDIとNYRAの新シリーズとは別の運営主体にある。2026年はピムリコ競馬場の再建工事によりローレルパークで行われ、2027年には新装ピムリコへ戻る計画だが、開催日の変更や新シリーズとの連携は確定していない。8月4日時点でメリーランド側は正式な対応をまだ示しておらず、声明は翌5日に予定されている。

今後、プリークネスがシリーズへ加わるのか、独自の高額賞金や放映契約で対抗するのか、それとも三冠第2戦としての伝統だけを守るのかが最大の焦点となる。ハスケルステークスやペンシルベニアダービーなど、他地区の有力3歳戦も現段階では対象外であり、CDIとNYRAの主要競走だけで年間王者を決めることへの反発も予想される。

まだ決まっていない項目

ポイント配分、登録・推薦制度、ボーナスの内訳、9月の最終戦の名称・距離・賞金、各競走の確定日程は未発表である。海外調教馬の参加条件も明らかになっておらず、日本馬が挑戦する場合にどの程度ポイントを引き継げるか、4戦出走条件が適用されるかも分からない。

それでも今回の発表は、米国3歳競馬が「3競走を5週間で勝ち切る三冠」だけでなく、「5か月間の安定した成績で王者を決めるリーグ戦型制度」へ軸足を移す歴史的な転換点である。伝統の三冠と新しい年間王者制度が共存できるのか、それとも巨額ボーナスを持つ新シリーズが旧三冠を事実上形骸化させるのか。2027年の米国競馬は、競走結果だけでなく路線選択そのものが大きな注目を集めることになる。

 

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