米競馬に「F1型リーグ」誕生へ|ゴドルフィン参戦、競走馬ドラフトも実施するHRLとは

米国競馬に、従来の馬主・調教師単位とは異なるチーム対抗型の新リーグが誕生する。2026年7月に発表された「HRL(Horse Racing League)」は、10チームが専属の競走馬を保有し、複数の競馬場を転戦しながらポイント制で年間王者を争う構想だ。2027年2月の開幕を予定しており、ゴドルフィンやウインスターファームをはじめとする世界的な競馬組織も創設チームとして名を連ねている。
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ToggleHRLとは
HRLを共同設立したのは、元リバティ・メディアCEOのグレッグ・マフェイと、投資・事業開発会社Skylarkの創業者ダニー・エプスティーンである。マフェイはリバティ・メディアによるF1買収後、映像コンテンツ、SNS、開催地の拡大、チームやドライバーを中心とした物語づくりを通じて、F1の商業的成長を支えた人物の一人として知られる。
HRLも同様に、競走だけでなく、馬の獲得、調教過程、出走馬の選考、チーム間のライバル関係、厩舎の舞台裏まで継続的に発信する。大レースの日だけ競馬を見る層を、シーズンを通して特定チームを応援するファンへ変えることが最大の狙いだ。
2027年は米国3都市で開催
| 開催時期 | 競馬場 | 都市 |
|---|---|---|
| 2027年2月 | サンタアニタパーク | ロサンゼルス |
| 2027年3月 | ガルフストリームパーク | マイアミ |
| 2027年4月 | キーンランド競馬場 | レキシントン |
初年度は3日間のイベントとして実施され、各開催日にHRL対象競走を4レース行う計画である。内訳はダート2競走、芝2競走を想定し、各レースは10頭立て。10チームが1頭ずつ出走させ、着順に応じてポイントを獲得する。開催日にはHRLの4競走だけでなく、地元の競馬関係者を対象とした通常競走も6競走前後組み込まれる。
ポイントはシーズンを通して加算され、総合部門に加えてダート部門、芝部門など複数のチャンピオンを決める構想も示されている。賞金とシーズン終了時のボーナスは合計1,000万ドル以上。2029年までに新たに3都市を加え、年間6開催へ拡大することも検討されている。
10チームが8頭ずつを所有
HRL最大の特徴が、2026年11月に予定される競走馬の公開ドラフトである。リーグ側が約80頭を集め、10チームがそれぞれ8頭を指名してロースターを編成する。対象は米国競馬で一定水準の実績を持つアローワンス級、すなわち条件戦クラスの競走馬が中心になる見通しだ。
単に既存馬を一日だけチームへ振り分けるのではない。ドラフト後は各チームが指名馬を実際に購入・所有し、調教師、騎手、チーム責任者を含む独自の運営体制を築く。シーズン中のトレードも想定されており、競走能力だけでなく、芝・ダート適性、距離適性、体調管理、4競走への出走馬選びなど、チーム編成そのものが勝敗を左右する。
各開催日に使うのは8頭のうち4頭だけであるため、全馬を無理に出走させる形式ではない。故障などで所属馬を失った場合には、同等以下の評価を持つ馬を市場から補充できる制度も検討されている。ただし、馬の能力を比較する評価指標、出走条件、年齢区分、距離設定、故障馬の交代規定などは、8月4日時点で最終決定していない。
ゴドルフィンなど大物オーナーが参加
創設段階で発表された参加グループは、世界各国で生産・競走事業を展開するゴドルフィン、米国の名門生産牧場ウインスターファーム、そしてゲイリー・バーバー、ヴィニー・ヴィオラ、クリス・プシロによる共同グループである。ヴィオラはNHLフロリダ・パンサーズのオーナーでもあり、バーバーは映画業界で実績を持つ。
残るチームについては今後発表され、スポーツ、音楽、エンターテインメント業界の著名人やブランドも参加候補とされている。海外報道では1チームの取得費用を約600万ドル、リーグ全体の資金調達目標を3,000万ドルとする情報も出ているが、これらの契約条件は公式には詳細が公表されていない。
なぜ「F1型」なのか
米国競馬はケンタッキーダービーのような大レースで巨大な視聴者を集める一方、一般層が年間を通して同じ競走馬を追い続ける仕組みが弱い。2026年のケンタッキーダービーはピーク時に約2,400万人が視聴したとされるが、多くの視聴者は年に数回の大競走しか見ない。活躍馬が早期に引退して種牡馬入りすることも多く、スターとライバル関係を継続的に売り出しにくいという問題もある。
そこでHRLは、馬が入れ替わっても応援対象として残る「チーム」を軸にする。F1ではドライバーだけでなく、フェラーリやマクラーレンといったチームに固定ファンが付き、チーム代表や技術陣まで物語の登場人物になった。HRLも馬主、調教師、騎手、チーム責任者の判断を可視化し、短い競走と舞台裏コンテンツを組み合わせることで、若年層や競馬未経験者へ訴求する。
収益源としては馬券、スポンサー、放映・配信権、チーム関連商品、飲食、音楽イベント、プレミアム席や接待需要などを想定する。競馬開催を単なる馬券発売の場ではなく、スポーツとエンターテインメントを組み合わせた一日型イベントとして販売する考えだ。
過去のチーム競馬と何が違うのか
米国ではすでに「ナショナル・サラブレッド・リーグ」などのチーム型企画が試みられてきた。しかし、競走馬を各チームが恒常的に所有する仕組みは定着せず、競馬と社交・接待イベントを組み合わせた企画へ軸足を移している。
HRLは、各チームがドラフト馬を本当に購入し、専用のロースター、運営部門、競走戦略を持つ点を違いとして強調している。また、ゴドルフィンやウインスターなど、競馬を本業とする大手組織を最初から参加させることで、著名人の名前だけを借りた企画になることを避けようとしている。
成功への課題も多い
HRLは実績ある競馬組織をチームオーナーに迎え、既存の一流競馬場を使用するものの、初年度は3開催・12競走にすぎない。短期間でファンがチームへの愛着を持てるか、ドラフト馬の能力を均等にできるか、既存開催との違いを分かりやすく示せるかが問われる。
また、放送・配信パートナー、詳細な馬券方式、全10チーム、調教師と騎手、競走条件、正式なポイント配分は未発表である。生き物である競走馬をプロスポーツの選手のようにドラフトする表現には、馬の福祉や出走管理をめぐる慎重な説明も必要になる。
それでも、ゴドルフィンやウインスター、米国ジョッキークラブの有力者が初期段階から支持している点は大きい。HRLは既存のG1路線を置き換える制度ではなく、春の3か月間に独自の興行を加える新規事業である。競馬を「レースごとに馬券を買う競技」から「チームと物語を追うシーズンスポーツ」へ変えられるのか。2026年11月のドラフトと、2027年2月のサンタアニタ開幕は、世界の競馬ビジネスにとって重要な実験となりそうだ。
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