香港競馬が生んだ怪物、カーインライジング。2026年8月時点で23戦21勝、2着2回。初期の2敗はいずれも2着で、2024年2月からは実に20連勝を継続している。G1は香港スプリント、センテナリースプリントカップ、クイーンズシルバージュビリーカップ、チェアマンズスプリントプライズ、豪州ジ・エベレストなど9勝。「現役最強スプリンター」であることにはほとんど異論がない段階まで来た。

では、ブラックキャビア、デイジュール、サイレントウィットネス、ロードカナロアなどを上回る「史上最強スプリンター」と呼んでもいいのだろうか。

数字上の「最高到達点」はすでに歴史級

2026年チェアマンズスプリントプライズで、カーインライジングは日本のG1馬サトノレーヴを4馬身4分の1差で圧倒。シャティン芝1200mを1分07秒10で走破し、自身のコースレコードをさらに更新した。

このパフォーマンスをTimeformは137ポンドと評価した。

Timeform最高値
アバーナント142
パパフォーウェイ139
カーインライジング137
デイジュール137
ムーアスタイル137
ブラックキャビア136
バターシュ136
ネイチャーストリップ133

つまりTimeformが1948年に評価を開始して以降、カーインライジングより高い数字を与えられたスプリンターは2頭しかいない。しかもアバーナントとパパフォーウェイは1940~50年代の馬であり、現代競馬に限定すればカーインライジングが最高である。

IFHAの国際レーティングでも2026年7月時点で131ポンド。スプリンター部門だけでなく全距離を含めた世界ランキングで1位タイとなっている。

純粋な「一戦で発揮した能力の高さ」で考えるなら、すでに史上最強と呼んでも無理のない領域に入った。

20連勝はサイレントウィットネスも突破

香港競馬のスプリンターを語る際、長らく基準だったのがサイレントウィットネスである。

同馬はデビューから17戦無敗。香港スプリント連覇をはじめ香港短距離界を支配し、2005年には日本へ遠征してスプリンターズステークスも制した。

カーインライジングは2026年1月に17連勝へ到達し、2月のクイーンズシルバージュビリーカップで18連勝。さらにスプリントカップ、チェアマンズスプリントプライズも勝ち、記録を20まで伸ばした。

しかも単に勝ち続けているだけではない。1200mでは何度もシャティンのコースレコードを更新し、1400mでも1分19秒36のコースレコードを樹立している。

香港競馬史という範囲なら、サイレントウィットネスを超えて「史上最高のスプリンター」と評価する材料は十分に揃ったと言える。

ブラックキャビアとの比較が最大の焦点

それでも世界の競馬ファンが「史上最強」と聞いて真っ先に思い浮かべる一頭がブラックキャビアだろう。

ブラックキャビアは25戦25勝。G1を15勝し、豪州だけでなく英国へ遠征してロイヤルアスコットのダイヤモンドジュビリーステークスも制した。一度も負けることなく競走生活を終えたという事実は、レーティングとは別次元の価値を持つ。

能力評価ではカーインライジング137、ブラックキャビア136でカーインライジングが上回る。しかし「キャリア全体の完成度」では現時点でブラックキャビアに軍配を上げたい。

カーインライジングは23戦して2敗している。ただし、その2敗はいずれも本格化前の2着であり、その後20戦連続で勝利している。今後さらに連勝を伸ばせば、この差も次第に小さくなる。

デイジュールとは最高速度で互角

欧州競馬史でスプリント能力の基準になってきたのが1990年のデイジュールである。

キングズスタンドステークス、ナンソープステークス、スプリントカップ、アベイ・ド・ロンシャン賞を立て続けに制覇。ナンソープで記録したTimeform137は30年以上にわたって伝説的な数字として残った。

カーインライジングはついにその137へ並んだ。

デイジュールは1000~1200mの双方で世界最高峰のスピードを証明した一方、カーインライジングは主に1200m、加えて1400mで圧倒している。持続力や連勝記録まで含めればカーインライジング、純粋な1000mの爆発力まで評価するならデイジュールという比較になる。

日本のロードカナロアと比べると?

日本競馬史上最高のスプリンター候補であるロードカナロアは、スプリンターズステークス連覇、高松宮記念、安田記念、香港スプリント連覇とG1を6勝。2013年香港スプリントでは5馬身差で圧勝し、IFHAから128ポンドを与えられた。

カーインライジングは現在131ポンドで、能力数値ではロードカナロアを上回る。

一方、ロードカナロアには日本と香港で勝ち、1200mだけでなく安田記念1600mまで制した万能性がある。カーインライジングも1400mでは圧倒的だが、1600mへの挑戦はまだない。

「1200mでどちらが強いか」ならカーインライジングを上に置きやすいが、スプリンター兼マイラーとしての幅まで含めればロードカナロアにも強い魅力が残る。

最大の評価材料となったジ・エベレスト

カーインライジングに対して以前あった最大の疑問は、「シャティンだから強いのではないか」という点だった。

その疑問を大きく払拭したのが2025年のジ・エベレストである。香港からオーストラリアへ遠征し、ランドウィック芝1200mで豪州トップスプリンターを撃破。慣れない環境、輸送、現地での調整を克服して世界最高賞金級のスプリント戦を勝ったことで、地元専用機ではないことを証明した。

さらに2026年チェアマンズスプリントプライズで4馬身以上離したサトノレーヴは、その後ロイヤルアスコットのクイーンエリザベスIIジュビリーステークスで鼻差の2着。カーインライジングが香港で下した馬が欧州最高峰でも勝ち負けしたことは、その能力を間接的に裏付けている。

それでも「史上最強確定」とまでは言い切れない

残る最大の課題は遠征実績の幅である。

ブラックキャビアは豪州から英国へ渡ってロイヤルアスコットを制し、サイレントウィットネスは香港から日本へ遠征してスプリンターズステークスを勝利。ロードカナロアも日本と香港でG1を制した。

カーインライジングには豪州のジ・エベレスト勝利があるが、欧州、日本、中東ではまだ走っていない。

もっともTimeform自身は、ロイヤルアスコットへ行かなければ能力を証明できないという考え方を否定している。香港で見せているパフォーマンスだけですでに「all-time great」の領域にあるという評価だ。

結論|「最強候補」ではなく、すでに最強を主張できる馬

現時点での評価をまとめるなら、ピーク時の純粋なスプリント能力ではカーインライジングを史上最強と評価してもいい。

Timeform137という数字はブラックキャビアを上回り、デイジュールと並ぶ。20連勝、シャティン1200m・1400mのレコード、香港G1の連勝、そしてジ・エベレストでの海外G1制覇まで揃っている。

一方で「競走生活全体を通した史上最高」という評価なら、25戦無敗・G1・15勝のブラックキャビアが依然として最大の壁になる。

したがって2026年8月時点では、「能力の最高到達点=カーインライジング」「無敗記録とキャリア完成度=ブラックキャビア」という整理が最も妥当だろう。

カーインライジングは2026年秋にジ・エベレスト連覇を目指す予定。ここを勝ち、さらに20連勝を伸ばしていけば、「史上最強候補」という留保さえ不要になる可能性がある。今後の数戦は、単なる現役最強馬の記録更新ではなく、世界競馬史におけるスプリンターの頂点を決めるレースになりそうだ。