あの高配当はどう出現したのか

穴党ファンの夢、10万舟券。公営競技の中でもボートレースは6艇のみで争われるため、3連単(1着から3着までを順番通りに当てる勝式)の組み合わせは全部でわずか120通りしか存在しない。競馬の最大4896通り(18頭立て)や、競輪の504通り(9車立て)と比べても圧倒的に少なく、したがって目玉が飛び出るような「超高配当」は、構造上どうしても出にくいとされている。一般的に「10万舟(配当が10万円以上)」が出れば、その日のビッグニュースとして扱われるほどだ。

それでも、時としてファンの想像や確率論をはるかに超える「大事件」が水面で起きるのが、ボートレースという競技の恐ろしくも深い魅力である。長らくボートレースの歴代最高配当は、2011年5月22日に徳山ボートレース場で記録された「68万2760円」であった。この記録は10年以上にわたって誰にも破られることのない、いわばアンタッチャブル・レコードだと思われていた。

しかし、2022年の秋、ついにその長い歴史が塗り替えられる劇的な瞬間が訪れた。しかもそれはSGやG1といった大舞台の優勝戦ではなく、日常的に行われている女子戦の予選レースだったのだ。今回は、ボートレース界全体に激震を走らせた、歴代最高配当「76万舟」が飛び出したあの伝説のレースの全貌を詳細に振り返る。


2022年11月1日 児島7R

まずは、2022年11月1日に岡山県の児島ボートレース場で開催された、第7R「G3オールレディース 第34回瀬戸の女王決定戦」予選競走。3連単歴代1位となる驚愕の761,840円が出現したレースだ。出走表は以下の通りである。

選手名支部級別
中北涼長崎B1
寺田千恵岡山A1
片岡恵理山口B1
日高逸子福岡A1
今井裕梨群馬A2
黒明花夢岡山B1

並び:123・456(枠なり3対3)

このレースは、圧倒的な実績と人気を誇る2人のA1レーサーにファンの支持が極端に集中していた。地元の絶対的エースであり女子ボート界を牽引する2号艇・寺田千恵と、「グレートマザー」の愛称で親しまれるレジェンド、4号艇・日高逸子である。確定オッズでも当然この2人を軸にした舟券が飛ぶように売れており、「インの1号艇・中北涼が逃げ粘るか、それとも実力上位の寺田や日高が格の違いを見せつけてねじ伏せるか」という見立てがセオリーであった。

一方で、舟券の対象として完全に「用なし(ノーマーク)」扱いとなっていたのが、大外の6号艇・黒明花夢(くろあき・はな)選手である。彼女は岡山支部所属の125期生で、祖父は「黒い弾丸」の異名をとったボートレース界の伝説的レーサー・黒明良光氏というサラブレッド。しかし当時はまだデビューから日の浅い若手のB1選手だった。さらに決定的なマイナス材料として、彼女は前日のレースで痛恨のフライング(F)を切ってしまっていた。F休みを控えた選手はスタートで無理な踏み込みができなくなるのが鉄則であり、今節もその後は6着を並べて不調の極みにあった。大外の不利な6コースから、しかもスタートを攻められない状況下で、A1級のレジェンドたちを相手に勝負に絡むのは「100%不可能」というのが、大方のファンの一致した見解であった。

レースはセオリー通りの枠なり3対3で進入。スタートのファンファーレが鳴り、6艇が一斉に水面を蹴り立てた。スタート直後、インの利を活かした1号艇・中北と、カド(4コース)から鋭く踏み込んだ4号艇・日高が好スタートを決める。バックストレッチ(向正面)に入ると、この人気を集めた1号艇と4号艇が激しい先陣争いを展開し始めた。実力者の日高が鮮やかなまくり差しを狙い、中北がインから必死の抵抗を見せる。2艇の意地と意地がぶつかり合い、互いに一歩も譲らないデッドヒートとなった。

運命の歯車が大きく狂ったのは、続く1周2マークの旋回だった。先頭を争う日高と中北が激しく競り合った結果、お互いのボートが接触すれすれの牽制状態となり、両者のターンが大きく外側に膨らんでしまったのだ。ボートレースには古くから伝わる鉄則がある。「前の艇がやり合うと、後ろに展開が向く」。このセオリー通り、もつれ合う2艇のイン側に、ぽっかりと広大なブイ際(内側)のスペースが空いた。

その千載一遇の隙を、誰よりも冷静に見逃さなかったのが、大外から展開をうかがっていた最低人気の6号艇・黒明だった。祖父譲りの鋭く思い切りの良いターンで、ぽっかり空いた内側のスペースをズバッと差す。競り合って失速した上位陣を波の狭間に置き去りにし、黒明のボートが一気に先頭へと突き抜けたのだ。児島特有の潮風を切り裂き、2周1マークを単独で先マイして完全に抜け出すと、そのまま力強い足取りで後続とのリードをグングンと広げていった。

後続はまさかの大乱戦となったが、なんとか体勢を立て直した1号艇の中北が2着に粘り込み、3着には5号艇の今井裕梨が続いた。圧倒的な人気を二分し、舟券の軸となっていた寺田と日高はそれぞれ4着、5着に沈むという、誰も予想しなかった大波乱の結末となった。

ゴール板を駆け抜けた順位は、1着6黒明花夢―2着1中北涼―3着5今井裕梨

電光掲示板に確定した3連単「6-1-5」の配当金が表示された瞬間、児島の水面は静寂のち大歓声に包まれた。その額、なんと761,840円。120通り存在する3連単の組み合わせの中で「119番人気」という、ほとんど最下位に等しい超絶大穴決着だった。総投票数の中で、この組み合わせに投じられていたのは全国でわずか「57票」。つまり、的中した人間は日本中に数えるほどしか存在しなかったのである。

長らく「絶対に破られない」と言われ続けた徳山の68万舟の記録を、一気に約8万円も上回るボートレース史上最高額の新記録が達成された瞬間であった。レース後、歴史的配当の立役者となった黒明はインタビューに対し、「地元で初めて勝てたことが何より大きいです。道中はずっとドキドキしていました。さすがに、おじいちゃんから電話がかかってくるかな」と初々しい笑顔を見せ、全国のボートレースファンにその名を強烈に刻み込んだ。


超高配当が出るレースの特徴

ボートレースにおいて、このような10万円、あるいは50万円を超えるような「超高配当(特大万舟)」が飛び出すレースには、いくつかの共通した特徴が存在する。

  • 本線が共倒れする: 圧倒的な人気を集める実力者(A1級など)が道中で激しく競り合い、お互いのターンを邪魔し合って上位から消える。
  • インコースの致命的なミス: 絶対的有利なインコース(1号艇)がスタートで遅れる、あるいは第1ターンマークの旋回で大きなミスをする。
  • 伏兵の冷静な展開突き: 完全なノーマーク(B級選手、フライング持ち、大外枠など)の選手が、上位陣の争いで生まれた展開の隙を冷静に突いて1着をもぎ取る。
  • 荒天の影響: 「荒れる水面」や「強い風」などの天候要因が絡み、実力上位の選手でもセオリー通りのレース運びができなくなる。

このような条件が奇跡的に重なった時、事前の実力差や枠の有利不利は完全に無意味と化す。今回の児島での「76万舟」も、A1級のレジェンド2人が競り合って大きな隙を作ったところに、最も人気がなくフライング持ちで不利とされた大外の若手が飛び込むという、まさに「穴党の夢」をこれ以上ない形で具現化した展開であった。

もし、まともに予想してこのような超高配当を的中させたいのであれば、「人気のA級選手同士が意地を張ってやり合う(=飛ぶ)展開」をピンポイントで想定し、アウトコースのB級選手を1着軸に据えた3連単全通り流し(特定の1艇を1着にした全流しは20通り)を買うしかない。投資額2,000円で76万円が手に入る計算になるが、それがいつ、どのレースで来るかは神のみぞ知る領域だ。

しかし、120通りという最も的中させやすい公営競技でありながら、たった100円が数十万円に化ける一撃の破壊力は、他の何物にも代えがたい魅力である。現在でもこの「76万1840円」という記録は燦然と輝き、未だ誰にも破られていない。これ以上の配当が出るには、再び全ての常識とセオリーが覆るような「水上の奇跡」を待つ必要があるだろう。一攫千金の夢を追うファンたちは、今日もまた、大外からの一発逆転を信じて水面に熱い視線を送っている。

 

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