あの高配当はどう出現したのか

穴党ファンの夢、100万馬券。北海道の帯広競馬場でのみ開催されている「ばんえい競馬」は、サラブレッドが走る平地競馬とは全く異なる、世界で唯一のレース形態を持つ公営競技である。体重1トンを超える巨大な農耕馬(ばん馬)たちが、騎手と重りを乗せた最大1トンにも及ぶ鉄ソリを引き、2つの障害(坂)が設けられた直線200メートルのセパレートコースで力とスピード、そして持久力を競い合う。

ばんえい競馬は最大でも「10頭立て」で行われる。そのため、3連単(1着から3着までを順番通りに当てる勝式)の組み合わせは、フルゲートでもわずか720通りしか存在しない。これは、同じく組み合わせが少ないボートレース(120通り)やオートレース(336通り)に次ぐ少なさであり、JRAの最大4896通りに比べると、大穴が出る確率は極めて低いと言える。レース自体のスピードも人が歩くほどの速度であり、途中で馬に息を入れさせながら(立ち止まらせながら)進むため、展開の紛れが起きにくく、実力馬が順当に勝ち切ることが多いのも特徴だ。

しかし、そんな「堅い」イメージの強いばんえい競馬においても、すべてのセオリーとファンの予想が音を立てて崩れ去り、常識を打ち破る超絶配当が飛び出した日があった。長らくばんえい競馬の最高配当は、2016年4月23日に記録された255万690円であったが、2019年の春、その記録を約29万円も上回る大事件が起きたのである。

それが、現在もばんえい競馬史上最高配当(五重勝などを除く単独レース)として語り継がれる2,844,100円の特大万馬券だ。たった720通りしかない中で、100円が280万円以上に化けるという驚異的な配当はどのようにして生まれたのか。鉄ソリの重みと深い砂が織りなす、筋書きのないドラマを紐解いていく。


2019年4月29日 帯広1R

歴史的瞬間は、2019年4月29日(祝月)の帯広競馬場、第1レースで訪れた。1日の始まりを告げる最初のレースであり、多くのファンが「まずは手堅く当てて、1日楽しむための資金を作ろう」と、比較的堅実な予想を立てる時間帯である。出走頭数はフルゲートの10頭立て。このレースで上位3着までに入った出走馬の概要は以下の通りである。

着順馬名人気
1着サクラタイショウ10人気
2着ジェイセリナ9人気
3着サカノダイヤ8人気

この日の帯広競馬場は、ばんえい競馬特有の砂のコンディションがレースを大きく左右する状態にあった。ばんえい競馬では、第1障害(小さな坂)と第2障害(大きな坂)をいかにスムーズに越えるかが勝敗の最大の分かれ目となる。ファンは出走馬のこれまでの登坂力や近走の成績を吟味し、力のある上位人気の馬たちが順当に実力を発揮すると予想していた。

逆に、近走で第2障害を越えるのに苦労して何度も膝をついてしまったり、坂を下った後の平坦な直線でバテて歩みが止まってしまったりした馬たちは、順当に下位人気(8〜10番人気)に甘んじていた。特に、後に1着となるサクラタイショウは単勝10番人気の最低人気。ジェイセリナは9番人気、サカノダイヤは8番人気と、この3頭は完全にファンから見放された「大穴トリオ」であった。馬券のプロでさえ、この3頭の組み合わせで決着するなどとは夢にも思わなかっただろう。

重々しいファンファーレとともにスタートゲートが開き、10頭のばん馬が一斉にソリを引き始めた。騎手の「ソレッ!」という独特の掛け声とともに、鉄ソリが砂を削る重低音が響き渡る。レース序盤、第1障害を越え、勝負の要となる第2障害のふもとに向けて各馬が息を整えながら進む。ここまでは、人気馬も穴馬も横並びの状態で、大きな波乱の兆しは見えなかった。

しかし、魔の第2障害で信じられない光景が広がる。人気を集めていた有力馬たちが、いざ坂を登り始めると、ソリの重さに耐えきれずに途中でバッタリと止まってしまったのだ。騎手が手綱を叩いて鼓舞するものの、馬は呼吸を乱し、膝をついて登り切ることができない。絶対的な実力を持つはずの人気馬たちが、まるで目に見えない壁に阻まれたかのように、第2障害で大苦戦を強いられたのである。

その横で、下位人気に甘んじていた伏兵たちが、まるで別馬のような軽快な足取りで障害に挑んでいった。息を整える間もそこそこに、力強く砂を蹴立てて坂を登り切る。なんと、最も人気がなかった最低人気(10番人気)のサクラタイショウが、人気馬たちを尻目に一気に先頭で障害をクリアし、坂を下り始めたのだ。さらにそれに続くように、9番人気のジェイセリナ、8番人気のサカノダイヤが続々と障害を突破。もがき苦しむ上位人気馬たちを置き去りにして、最後の平坦な直線をゴールに向けて力強く歩み始めたのである。

ばんえい競馬では、障害を降りてからの直線で脚が止まり、後続に逆転されることも日常茶飯事である。しかし、この日の伏兵陣は最後まで脚色を落とさなかった。観客がどよめきと悲鳴を上げる中、最低人気のサクラタイショウが見事逃げ切り1着でゴール板を通過。続いて9番人気のジェイセリナが2着、8番人気のサカノダイヤが3着に入線した。

「10番人気→9番人気→8番人気」という、人気順とは完全に真逆の「逆順決着」。720通りある3連単の組み合わせの中で、なんと下から数えて18番目となる「702番人気」という大波乱であった。

確定した3連単の配当は、2,844,100円

100円玉が束になって280万円を超える現金に変わる、ばんえい競馬史上最大の奇跡である。最大10頭立てという小規模な枠組みの中でこれほどの配当が出ることは、確率論や過去のデータを遥かに凌駕する出来事だった。


超高配当が出るレースの特徴

最大10頭立てのばんえい競馬において、100万円を超えるような「超高配当」が飛び出すレースには、平地競馬とは異なる独特の特徴が存在する。

  • 魔の第2障害での「人気馬総崩れ」: ばんえい競馬で波乱が起きる最大の要因はこれである。圧倒的な人気馬が、当日の体調や砂の微妙な変化によって第2障害を登り切れず、完全にレースから脱落してしまうパターン。
  • 馬場水分量の読み違い: ばんえい競馬では「馬場水分(砂に含まれる水分量)」が極めて重要になる。雨が降って水分量が多くなると、砂がソリの滑りを良くするため(軽馬場)、パワーよりもスピード型の人気薄ホースが台頭しやすくなる。この変化が極端に出た日は荒れやすい。
  • 若いクラス(2歳・3歳戦)や下位クラスでのレース: 実力が完全に定まりきっていない若い馬のレースや、その日の調子でガラリと走りが変わる下位クラス(Cクラスなど)のレースでは、予期せぬ伏兵の激走が起こりやすい。
  • ゴール前での「バッタリ」: ばんえい競馬のソリの後端がゴール線を越えるまでがレースである。先頭を走っていた人気馬が、ゴール線のわずか数十センチ手前でスタミナ切れを起こして完全に立ち止まり、後ろから来た人気薄の馬に次々と抜かれるという、ばんえい特有の逆転劇。

2019年4月29日の帯広第1レースは、「下位クラスのレース」で「人気馬が第2障害で苦戦」し、「人気薄の馬がスムーズに障害を越えてそのまま逃げ切る」という、ばんえい競馬における波乱の要素が極端な形で結実した結果であった。

最大720通りという最も組み合わせが少ない競馬でありながら、時に数百万馬券が飛び出すばんえい競馬。「何が起きるか、ソリがゴール線を完全に通過するまで分からない」という格言通り、重いソリを引く馬たちのひたむきな姿とともに、競馬の奥深さと恐ろしさを同時に見せつけたのが、この284万馬券の伝説である。一攫千金の夢は、帯広の深い砂の中にも確かに眠っているのだ。

 

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